介護サービスを提供した事業者に支払われる介護報酬は、3年に1度見直されることになっています。日本は以前から少子高齢化が進んでおり、総務省が発表した人口推計(2022年10月1日現在)によれば、総人口に占める高齢者の割合は65歳以上が29.0%、75歳以上は15.5%と、年々増加の傾向にあります。2025年になると団塊世代が75歳以上(後期高齢者医療制度の対象)に到達し医療や介護の需要がさらに増える一方で、介護保険の財源の確保や業界における人材の獲得が困難になる可能性が高くなってきています。とくに最近は、他業種の賃上げで介護職員の給与が相対的に低くなり、他の業界に人材が流出していて、今回の改定でどのような見直しが行われるかが注目されていました。
こうした中、社会保障費を抑えたい鈴木財務大臣と介護人材の待遇改善を図りたい武見厚生労働大臣が折衝を行ったうえで決定された改定率は1.59%のプラスで、国費432億円が投じられることになりました(前回2021年度は0.70%のプラス改定、国費196億円)。1.59%のうち0.98%が介護職員の処遇改善加算分となっており、それを差し引くと介護事業所への実質的配分率は0.61%です。また、処遇改善に関連する3つの加算を一本化した際の賃上げ効果や、水道光熱費の基準費用額の増額による介護施設全体の増収効果などもあり、0.45%プラス相当の改定が見込まれています。そのため、改定率1.59%と合わせると実質2.04%プラス相当の引き上げとなりました。
ところで、今回の改定は4月に一斉にではなく、訪問看護、訪問リハ、通所リハ、居宅療養管理指導が6月施行、それ以外のサービスが4月施行となります。前述の処遇改善3加算(処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ加算)を一本化して新設する「介護職員等処遇改善加算」については、6月に施行されますが、改定されるまでの2月から5月までの4か月間は、介護職員処遇改善支援補助金を受け取り賃上げに充てることができます。補助金額は月額平均6,000円相当(収入2%程度)で、介護職員を対象に賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提としています。対象職種は介護職員のみですが、事業所の判断でほかの職種の処遇改善にも充てることが可能で、例えば、ケアマネージャーや相談員、看護師、リハビリ関連の職種、調理員、事務員なども補助金による収入の引き上げが期待できます。なお、補助金を受け取るには都道府県に処遇改善計画書などを提出し申請する必要があります。
令和6年度介護報酬改定の概要(厚生労働省)
人口構造や社会経済状況の変化を踏まえ、「地域包括ケアシステムの深化・推進」「自立支援・重度化防止に向けた対応」「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」「制度の安定性・持続可能性の確保」を基本的な視点として、介護報酬改定を実施。
1.地域包括ケアシステムの深化・推進
認知症の方や単身高齢者、医療ニーズが高い中重度の高齢者を含め、質の高いケアマネジメントや必要なサービスが切れ目なく提供されるよう、地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組を推進
- 質の高い公正中立なケアマネジメント
- 地域の実情に応じた柔軟かつ効率的な取組
- 医療と介護の連携の推進
- 看取りへの対応強化
- 感染症や災害への対応力向上
- 高齢者虐待防止の推進
- 認知症の対応力向上
- 福祉用具貸与・特定福祉用具販売の見直し
2.自立支援・重度化防止に向けた対応
高齢者の自立支援・重度化防止という制度の趣旨に沿い、多職種連携やデータの活用等を推進
- リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の一体的取組等
- 自立支援・重度化防止に係る取組の推進
- LIFE(※)を活用した質の高い介護
(※)科学的介護情報システム「LIFE」 → リハビリテーションに関する情報を蓄積するデータベースであるVISIや、ケアマネージャーが作成するアセスメントなどの科学的データを集めたCHASEを活用し、科学的に裏付けられた利用者に求められる介護サービスの提供を目指すシステム
3.良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり
介護人材不足の中で、更なる介護サービスの質の向上を図るため、処遇改善や生産性向上による職場環境の改善に向けた先進的な取組を推進
- 介護職員の処遇改善
- 生産性の向上等を通じた働きやすい職場環境づくり
- 効率的なサービス提供の推進
4.制度の安定性・持続可能性の確保
介護保険制度の安定性・持続可能性を高め、全ての世代にとって安心できる制度を構築
- 評価の適正化・重点化
- 報酬の整理・簡素化
5.その他
- 「書面掲示」規制の見直し
- 通所系サービスにおける送迎に係る取扱いの明確化
- 基準費用額(居住費)の見直し
- 地域区分
(樋口)