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2023年の日本経済の見通し【288号】

※次年の記事はこちら「2024年の日本経済の見通し【313号】

謹んで新春のお祝詞を申し上げます。
昨年中は格別のご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。

円安・資源高の影響を受けた2022年の日本経済

昨年(2022年)の日本経済は、2020年の大きな落ち込み(実質GDP▲4.3%)から緩やかに回復したものの、新型コロナウイルスの感染拡大や物価上昇などの懸念材料が顕在化したため、実質GDP成長率は2%を下回る見込みです。2022年日本経済の回復力は、昨年の予想(3%程度のプラス成長)を下回り、期待通りの回復ではありませんでした。

円安やエネルギー価格の高騰により輸入額が大幅に増加し、輸出の伸びを大幅に上回ったため、2022年の貿易赤字は過去最大に膨らむ見通しとなりました。この大幅な貿易赤字が、日本のGDPの計算に負の影響を与えました。

さらに、GDPの過半を占める個人消費も、物価上昇を加味した実質ベースで伸び悩みました。新型コロナウイルス流行の影響でサービス消費の回復が遅れたうえ、食料やエネルギーといった値上がりが著しかった非耐久財への支出が抑制されたほか、車や家電などの耐久財は、部品不足による供給制約に値上げも相まって、低い水準に落ち込みました。

2023年の日本経済を取り巻くリスク要因

2023年の日本経済を見通すにあたっても、日本を取り巻く経済環境は、昨年の日本経済に影響を与えた為替や物価の動向に加え、世界景気の減速などリスク要因が数多くあり、2023年の実質GDP成長率は昨年の成長率より鈍化するものと考えています。

昨年、日本のGDP成長率に最も負の影響を与えた輸入の増加は、資源価格の高騰に円安が拍車をかけて発生したものでした。今年も円相場の動向には注意が必要になりそうです。

円安と貿易赤字の行方

円相場は、昨年10月21日に1ドル=151円という32年ぶりの円安水準にまで下落しました。相場を押し下げた主因は、日米金融政策の方向性の違いと貿易赤字による円売り・ドル買いです。この急速な円安は衝撃的な出来事でしたが、現時点では、FRBによる利上げの減速が予想されることから、既に急激な円安はピークアウトしたと考えられます。

一方、日本では、日銀総裁が2023年に交代することで、日銀が金融政策を修正する可能性もあり得ますが、財政の問題や日銀の財務を考えると、日銀の金融政策は微修正程度にとどまり、劇的な政策転換をするとは考えにくいです。したがって、2023年も日米の金利差が大きい状態が続き、円相場が大きく円高方向に向かうことも想定しにくい状況です。

そうなると、日本が貿易赤字を縮小できるかどうかも、円相場を左右することになりそうです。

世界経済の減速の影響

今年の世界経済は、インフレ抑制への世界的な利上げで世界経済が減速するとの見方が強まっています。日本の貿易赤字急増の背景となった資源価格は、世界景気が減速するという見通しから調整を始めています。今後は、この資源価格の調整が日本の貿易収支を改善させ、円安圧力を緩和してくれることを期待しています。

もっとも、世界景気が減速すると、日本の輸出も伸びないことになりますし、ウクライナ危機が長期化する場合、原油や穀物の高値は続き、日本の貿易収支は赤字のままとなるでしょう。

一方、GDPの計算上、輸出増加への寄与が期待されるのが、インバウンド(訪日外国人)の復活です。昨年10月から個人旅行客の入国制限が緩和されました。円安の効果もあることから、今後はインバウンドによる旅行消費の増加が続くと思われます。ただし、2023年は中国人の戻りが期待しづらいことから、インバウンドの完全復活は2024年以降になり、純輸出赤字の解消には不十分だと言えます。

結局のところ、インバウンドを含めたとしても貿易赤字がすぐに解消するとは考えづらく、足元の貿易赤字を解消できなければ、円高に大きく進むことは見込めません。

ただし、FRBによる金融引き締めの影響で米国が景気後退に陥った場合、FRBが利下げに転換するとの思惑が金融市場を支配し、ドルの先安観が強まって、円高・ドル安基調となる可能性も否定できません。

サービス消費の回復

このように、世界景気が減速するとの見方から、企業は設備投資に慎重になり、年内は企業の設備投資も力強さを欠くことになりそうです。

そうなると、2023年の日本経済を見通すうえでは、日本のGDPの過半を占める個人消費が最も重要な項目になるといえます。

2023年は、一年を通して緊急事態宣言などの行動制限が求められることがなくなり、新型コロナウイルスの影響が緩和されることにより、経済活動が本格的に回復に向かいそうです。

特に、新型コロナウイルスを機に落ち込んだ移動や接触を伴うサービス関連支出には、回復の余地があると思います。経済再開でサービス消費が回復するほか、供給制約の緩和による個人消費の押し上げも期待されます。

さらに、新型コロナウイルス対策の給付金や行動制限による消費抑制で積みあがった「強制貯蓄」に支えられて、高所得者や資産家などによる高額品の消費も伸びそうです。

物価上昇と賃上げ

一方、昨年11月の消費者物価指数(CPI)は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前年同月比で3.7%上昇しました。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に欠かせない品目が値上がりしています。

この物価上昇に伴い、昨年11月の1人当たりの賃金(従業員5人以上の事業所)は、物価変動の影響を考慮した実質で前年同月比3.8%減少しました。減少は8カ月連続で、物価の上昇に賃金の伸びが追いつかない状況が続いています。実質賃金の落ち込みが続きますと、家計の購買力が低下し、景気の下振れ圧力となります。

物価がかなり上昇していることから、今年の春闘(春季労使交渉)では、連合が5%程度の賃上げ目標を掲げており、大企業では賃上げの機運が高まっています。ただ、世界経済の減速が予想される中、中小企業でも高い賃上げ率を実現することは困難です。そのため、名目賃金は上がると思いますが、2022年にマイナスになった分を取り戻すほど実質賃金が上がるのはかなり難しいと思います。つまり、強制貯蓄や賃上げの恩恵が少ない消費者は、消費者物価の上昇で生活費が上がってしまうため、さらに節約を余儀なくされることになるかもしれません。

そのため、個人消費は、回復傾向が続きますが、費目別にみると、経済回復に伴い増加する項目と、物価上昇の影響で伸び悩む項目に分かれそうです。

減速する2023年のGDP成長率

以上のことから、日本経済は、サービス消費やインバウンドを中心に経済活動が正常化することで、回復傾向が続く可能性は高いと思います。しかし、個人消費は物価上昇の影響を受けるうえ、世界景気の減速とウクライナ危機の長期化により、貿易赤字の解消も見込みにくい状況です。これらの仮定から、2023年の日本の実質GDP成長率はプラスを維持するものの、2022年の成長率を下回ることになると考えています。

中小企業を取り巻く環境には、特に注意が必要です。今年は春闘で正社員の賃金が上がる方向にあります。労働組合がない中小企業も春闘の結果の影響を少なからず受けることになるでしょう。実質的に無利子・無担保の新型コロナウイルス関連融資の返済も春ごろから本格化します。中小企業経営は、原材料高の販売価格への転嫁、人手不足の解消、賃上げの実現など、今年は様々な課題に対応する必要がありそうです。

 

本年も何とぞよろしく、ご愛顧のほどお願い申し上げます。

(小島淳次)

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