2022年4月からの保険診療の金額を定めた診療報酬の改定内容がまとまりました。今回は新型コロナの感染拡大後初の改定ですが、診療報酬の本体(技術料、人件費)が+0.43%(2020年度+0.55%)、薬価(薬の公定価格)は▲1.35%(2020年度▲0.99%)、医療材料価格は▲0.02%(2020年度▲0.02%)、全体で ▲0.94%(2020年度▲0.46%)となり今回も引き下げ(約1,300億円削減)です。本体の+0.43%の内訳は「看護の処遇改善のための特例的な対応」+0.20%、「不妊治療の保険適用のための特例的な対応」+0.20%、「リフィル処方箋(一定の要件のもと医療機関に行かずとも処方箋を反復利用できる)の導入・活用促進による効率化」▲0.10%、「小児の感染防止対策に係る加算措置(医科分)の期限到来」▲0.10%、残りの0.23%が各科に配分(各科改定率:医科0.26%、歯科0.29%、調剤0.08%)、となっています。
診療報酬改定について審議する中央社会保険医療協議会は今回の改定に当たっての基本認識として、
- 「新興感染症等にも対応できる医療提供体制の構築など医療を取り巻く課題への対応」
- 「健康寿命の延伸、人生100年時代に向けた『全世代型社会保障』の実現」
- 「患者・国民に身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現」
- 「社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和」
を掲げています。
さらに基本的視点と具体的方向性を下記の通り示しました。
①新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で質の高い医療提供体制の構築【重点課題】
【具体的方向性の例】
- 当面、継続的な対応が見込まれる新型コロナウイルス感染症への対応
- 医療計画の見直しも念頭に新興感染症等に対応できる医療提供体制の構築 に向けた取組
- 医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価
- 外来医療の機能分化等
- かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価
- 質の高い在宅医療・訪問看護の確保
- 地域包括ケアシステムの推進のための取組
②安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等の推進【重点課題】
【具体的方向性の例】
- 医療機関内における労務管理や労働環境の改善のためのマネジメントシステムの実践に資する取組の推進
- 各職種がそれぞれの高い専門性を十分に発揮するための勤務環境の改善、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進
- 業務の効率化に資するICTの利活用の推進、その他長時間労働などの厳しい勤務環境の改善に向けての取組の評価
- 地域医療の確保を図る観点から早急に対応が必要な救急医療体制等の確保
- 令和3年11月に閣議決定された経済対策を踏まえ、看護の現場で働く方々の収入の引上げ等に係る必要な対応について検討するとともに、負担軽減に資する取組を推進
③患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現
【具体的方向性の例】
- 患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価や医薬品の安定供給の確保等
- 医療におけるICTの利活用・デジタル化への対応
- アウトカムにも着目した評価の推進
- 重点的な対応が求められる分野について、国民の安心・安全を確保する観点からの適切な評価
- 口腔疾患の重症化予防、口腔機能低下への対応の充実、生活の質に配慮した歯科医療の推進
- 薬局の地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価、薬局・薬剤師業務の対物中心から対人中心への転換の推進、病棟薬剤師業務の評価
④効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上
【具体的方向性の例】
- 後発医薬品やバイオ後続品の使用促進
- 費用対効果評価制度の活用
- 市場実勢価格を踏まえた適正な評価等
- 医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価(再掲)
- 外来医療の機能分化等(再掲)
- 重症化予防の取組の推進
- 医師・病棟薬剤師と薬局薬剤師の協働の取組による医薬品の適正使用等の推進
- 効率性等に応じた薬局の評価の推進
まとめ
今回の改定においては、コロナ禍など危機時への対応力を強化すること、医療資源を有効に活用し安心できる医療を効率的に提供する体制を整備することに意識が注がれています。高度かつ専門的な医療を提供する病院や重症患者を受け入れるなど他の医療機関を支援する体制を整えている病院、感染症防止や発熱患者を診る体制を整えている診療所などが評価されます。また、かかりつけ医機能の評価にあたっては報酬算定要件に在宅患者の訪問診療の実績が必要であり、専門的な医療機関を紹介する役割を担うことも盛り込まれています。一方、患者に対しては、紹介状なしで大病院を受診した場合の負担額をさらに引き上げるとして医療の機能分化への理解を強く求めています。このように病院、診療所それぞれに求められる役割をより明確化し互いの連携をさらに意識した評価と見直しを行うことで、安心・安全かつ効率的で質の高い医療提供体制の構築を目指しています。
(樋口)