〔NYダウ史上最大の下げ幅〕
世界の株式市場が不安定な状態になっています。2月5日の米国株式市場でダウ工業株30種平均が前日比1,175ドル安と1日の下げ幅としては史上最大の下げ幅を記録しました。米国株急落の流れを引き継いで、6日の東京株式市場でも日経平均株価が一時1,600円超下落し、下げ幅はバブル崩壊後の1990年以来の大きさとなりました。その翌日7日の東京株式市場では、前日の米ダウ工業株30種平均が急反発した流れを引き継ぎ、日経平均株価が大幅に反発し、上げ幅は一時700円を超え、2016年11月の米大統領選後以来1年3カ月ぶりの大きさとなり、米国から始まった世界同時株安に歯止めがかかってきたようにみえました。しかし、8日に米ダウ工業株30種平均が再び急落し、前日比1,000ドル超下げました。これを受けた9日の東京株式市場で日経平均株価も大幅に下落し、下げ幅は一時700円を上回りました。
世界経済は好調だったにも関わらず、米国発の株価下落が世界に波及してしまい、世界の金融市場で動揺が止まりません。そこで、今回の株価下落の背景について考えたいと思います。
〔発端は想定以上に好調な雇用統計〕
米国株下落のきっかけは、2月2日に発表された米国の雇用統計が、市場の予想を大きく上回る高い伸びを示したことです。1月の雇用統計では、就業者が(予想)18.5万人増から(結果)20.0万人増と改善し、時間給賃金が前年比+2.9%と2009年6月以来の高い伸びを記録しました。
この時間給賃金の上昇が、物価が予想以上に上がるのではないか?との懸念を生みました。そして、この物価上昇によるインフレを抑制するために、米連邦準備理事会(FRB)が利上げのペースを速めるのではないか?という観測が広がりました。
この観測が投資家による債券売りを誘い、2日のニューヨーク市場で長期金利(10年物国債利回り)が一時2.85%と約4年振りの水準にまで上昇しました。金利の上昇は、債券価格の下落を意味します。金利上昇を受けて、米国株の割高感が強くなったため、運用難で株式に資金を振り向けてきた投資家は株式に売りを出し、米国株は売りが優勢となりました。
さらに、コンピューターを使った自動取引による一方的な売り注文が、株安に拍車をかけ株安を増幅しました。VIX指数(恐怖指数)が急騰したことで、コンピューターにリスクが高まったと判断されて売り注文が膨らみ、歴史的な下げ幅につながりました。
もともと投資家の中ではこれまでの株価が行きすぎではないか?との警戒感がありました。米ダウ工業株30種平均は、年明けから連日で最高値を更新するなど、過熱感を指摘される水準まで上昇していました。
さらに、先述の通り今回の株価下落の背景には、FRBによる利上げ加速への投資家の警戒感がありました。米国は雇用が改善して、賃金も上昇し、景気が拡大しているにも関わらず、FRBは緩やかな利上げで、好景気にもかかわらず物価が上がらない適温経済を演出してきました。それがこれまでの株高の大きな要因となっていましたが、米国の賃金が本格的に上昇し、景気が過熱してくると、インフレへの警戒感から、FRBが利上げを加速する可能性は高まります。
〔パウエルFRB議長の姿勢に注目〕
ただ、企業の業績は好調で、世界経済の拡大基調は変わっていないため、相場が落ち着きを取り戻せば、再び株価は上昇するという見方があります。
一方で、米株価の下落により、相対的に安全な資産とされる円がドルに対して買われたため、外国為替市場で円高が進んでいます。円高傾向が続きますと、日本の輸出企業の業績に影響を与える可能性も心配されます。
FRBでは、イエレン議長が退任し、パウエル理事が新しい議長に就任しました。今後は、パウエル議長がどのような金融政策を行うのか?その手腕に注目したいと思います。
(小島淳次)