謹んで新春のお祝詞を申し上げます。
昨年中は格別のご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。
2025年の日本経済の実質経済成長率は、潜在成長率並みの0.6%程度からそれを若干上回る1%程度の低成長が続くことが予想されます。外需はトランプ米次期政権の政策や中国経済の減速により輸出の伸びが抑制されることが見込まれます。また、内需は人手確保のための賃上げによる個人消費の回復が継続する見込みですが、物価高により実質の個人消費は多少改善する程度にとどまると考えられます。ただ、設備投資の回復を期待できるほか、政府による大規模な経済対策も、日本経済を下支えすることが期待されます。
賃上げと個人消費
2025年の日本の景気を見通すに当たり重要な要因として、賃金の上昇が挙げられます。今年も、大企業を中心に積極的な賃上げが実施される見込みであるうえ、人手不足が深刻になっていることから、中小企業においても、人手確保のための賃上げを実施せざるを得ないと思います。賃上げが継続することで、日本のGDPの半分以上を占める個人消費は底堅く推移する見込みです。
ただ、この賃上げによる人件費の増加を価格に転嫁する動きが強まるうえ、食料品などの値上げが消費者物価を押し上げる要因となります。さらに、物価高対策として実施されてきたエネルギー関連の補助金が継続されない場合、さらに物価を押し上げる要因になります。
賃金が上昇することで、名目の個人消費は増加することが見込まれますが、賃金の上昇は貯蓄を増やすマインドを高めるうえ、価格転嫁による物価上昇も続くため、物価変動の影響を除く実質の個人消費は多少改善する程度となり、物価上昇を大きく上回るほどの消費の増加は期待できないと考えています。
改善が続く企業業績
企業の売上高については、値上げによる価格転嫁が進むことで増加傾向が続く見込みです。一方、トランプ米次期政権の政策や中国の成長率鈍化など、世界経済は減速するリスクがあり、輸出の伸びが抑制される可能性はあります。しかし、トランプ米次期政権の政策が物価高を招き、FRBによる利下げ終了が意識されるとともに、日銀による利上げが緩やかに実施されることで、年内は急激な円高となるリスクは低いと思われます。そのため、インバウンド(訪日外国人)の需要は引き続き拡大し、関連するサービス業の業績を押し上げ、非製造業が好調を維持することが予想されます。
このため企業業績は改善が継続する見込みですが、人件費などのコスト増加を価格転嫁し続けられる企業と価格転嫁できない企業で、業績の差が拡大することも考えられます。
堅調な設備投資
個人消費に次いで日本の内需の柱となっている設備投資についても、好調な企業業績を背景に、堅調に推移するものと見込まれます。世界経済が減速するリスクがあるため、需要減に備えて、生産量を増やすような投資は低調になる可能性がありますが、省エネ化・省力化対応のデジタル投資、国内回帰の投資は期待できそうです。
トランプ米次期政権の政策
このように、今年の日本経済は内需が下支えする見通しですが、日本の景気の先行きに影響を与えるリスク要因として、トランプ米次期政権の政策や中国経済の減速などが考えられます。
トランプ米次期大統領が選挙戦で掲げた政策には、関税の引き上げや不法移民の国外退去措置などがあります。このうち早期に影響を与える可能性が高い政策が関税の引き上げです。関税の引き上げが実施され、米国の輸入品の国内価格に転嫁されますと、米国の需要を下押しするうえ、相手国からの報復関税により米国の輸出に影響を及ぼし、米国の景気へ悪影響を与えることが懸念されます。
さらに、不動産不況や消費の鈍化により減速が見込まれている中国経済には、トランプ米次期政権による中国への関税引き上げが、下押し圧力をかけることになりそうです。
日本においては、米国による代替調達先として、米国向けの輸出が増える品目もありそうですが、日本も関税の対象となる可能性があるうえ、世界経済が減速する場合、日本の輸出の伸びも抑制されることが見込まれます。
賃上げの持続
以上の通り、2025年の日本経済は、世界経済の減速がリスク要因として考えられるものの、国内経済は緩やかな成長が続きそうです。ただし、成長の背景にある人手不足、賃上げ、物価高が企業経営の重しとなりそうです。
毎月勤労統計調査によりますと、基本給を示す所定内給与は、昨年10月に前年比2.5%増と高い伸び率となり、6ヶ月連続で2.0%を超えました。夏の賞与を含む「特別に支払われた給与」は、昨年6月が7.8%増、7月が6.6%増と、賞与が大きく伸びたことから、人手確保のため賞与増額で対応した企業が多かったと考えられます。今年は、昨年並みの賃上げを実施できない企業が増加し、賃金の伸びは抑制される可能性がありますが、大手企業による賃上げは継続すると予想されます。そのため、中小企業においては、賃上げ持続への取り組みや企業存続のための取り組みが、本年の企業経営に欠かせない要素となりそうです。
本年も何とぞよろしく、ご愛顧のほどお願い申し上げます。
(小島淳次)