謹んで新春のお祝詞を申し上げます。
昨年中は格別のご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。
伸び悩んだ2023年の日本経済
昨年(2023年)の日本経済は、引き続き回復傾向にあったものの、伸び悩みました。物価変動を除いた実質国内総生産(GDP)は年率の実額が、2023年1~3月期557兆円、4~6月期562兆円、7~9月期558兆円と、コロナ前(2018年)の554兆円をいずれも上回りましたが、2023年7~9月期の実質GDPは前期比0.7%減、年率換算で2.9%減のマイナス成長となりました。
2023年7~9月の年率成長率に対する寄与度を見ると、個人消費や設備投資といった国内需要がマイナス2.5ポイント、海外需要がマイナス0.4ポイントとなっており、特に内需に関する項目で落ち込みが目立ちました。2023年の10月~12月は、再びプラス成長に戻ったと思われますが、2024年の日本経済が成長を続けるためには、個人消費の回復が課題となりそうです。
食料高が個人消費の重荷
総務省が公表した昨年10月の家計調査によりますと、2人以上の世帯の消費支出は30万1,974円と、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比2.5%減少し、マイナスは8カ月連続となりました。名目の消費支出は1.3%増でしたので、家計では支出額が増えているにも関わらず、物価高の影響で、実質ベースの個人消費の落ち込みが続いています。
実質ベースの内訳を見てみますと、「食料」が4.4%減と大きく落ち込んでいるほか、「家具・家事用品」も、家庭用耐久財が減少した影響で、12.9%減でした。「被服及び履物」の支出も、冬物衣料の購入が減り、9.7%減となりました。
一方、半導体不足が緩和し、自動車の販売は回復傾向にあることから、自動車購入などが伸びて「交通・通信」が5.3%増えました。飲酒代や喫茶代など外食への支出も全体を押し上げています。
このように、品目別では支出が増加している項目もあるうえ、高額品やレジャー消費が堅調な一方、生活必需品を中心に割安な品を求める節約志向が高まっています。消費支出増減率への寄与度を見ると、食料がマイナス1.24ポイントとなっており、家計の生活防衛意識の高まりが、個人消費の重荷となっています。
物価上昇のけん引役はモノからサービスに
物価の上昇については、昨年11月の消費者物価指数が、変動の大きい生鮮食品を除く総合で前年同月比2.5%の上昇となりました。前年同月比の上昇は27カ月連続となり、日銀が目標とする物価上昇率2%を上回る水準での物価上昇が続いています。原油価格の上昇に円安が追い打ちをかけて輸入物価が上昇したことが、物価上昇のきっかけでしたが、足元で輸入物価が下落に転じ、輸入物価上昇による物価上昇圧力がピークアウトする中でも、依然として物価上昇率は高い水準を維持しています。
昨年11月のモノとサービスの物価上昇率を見てみますと、生鮮食品を除くモノが2.7%、サービスが2.3%伸びており、サービスの上昇率が昨年10月の2.1%から加速しています。2024年は、人件費の増加によって、サービス価格の上昇が続くものと考えられます。
また、政府の電気・ガス料金抑制策がない場合、昨年11月の生鮮食品を除いた総合は3.0%の上昇で、物価の伸びは政策効果で0.5ポイント抑えていたことになります。政府による対策が打ち切られた場合の影響も、今年の物価の押し上げ要因となります。
一方、既に輸入物価が下落に転じ、企業物価の上昇率も縮小していることから、企業の価格転嫁の動きが鈍り、物価上昇圧力が和らぐことで、今年後半には物価上昇率も鈍化していくと考えられます。ただし、賃金上昇を転嫁したサービスの価格は、一度上がると継続しやすいため、物価上昇率が縮小したとしても、物価高が続く可能性は高いと考えます。
インフレ率を上回る個人所得の増加
物価高が続く2024年の日本経済を見通すうえで、いま関心が高まっているのが実質賃金の動向です。
毎月勤労統計調査(従業員5人以上の事業所)によると、昨年10月の1人あたりの現金給与総額は前年同月比で1.5%増となり、「名目賃金」は2022年1月から22カ月連続のプラスとなっています。一方、物価を考慮した「実質賃金」は前年同月比2.3%減少しました。実質賃金のマイナスは19カ月連続で、物価高に賃金上昇が追いつかない状況が続いています。このことが、個人消費が伸びにくくなっている原因の一つと言われています。
政府は、2024年度の国民1人当たりの所得が2023年度に比べて3.8%増加し、2%台半ばを見込むインフレ率を超すと予測しています。所得の増加率3.8%のうち、今年6月に予定されている定額減税が1.3ポイント、残りが賃金上昇により増加すると試算しています。
政府の試算では、一時的な減税で所得が上がる効果を見込んでいるだけにも思えます。
ただ、経済が回復傾向にあるなかで人手が不足していることから、今年の春闘でも高めの賃上げが見込まれるうえ、前述したとおりに物価上昇率が縮小した場合、実質賃金のマイナス幅が縮小し、実質賃金も今年中にプラスに転化する可能性があります。
成長率が鈍化する2024年の日本経済
今後は、この個人所得の増加に伴い、個人消費が拡大するかがポイントになりますが、「賃金と物価の好循環」を実現できるほど、個人消費が拡大することには期待を持てないと感じています。物価高による節約志向以外にも、増税や老後への不安、住宅ローン金利の上昇リスクなど、消費マインドの改善へのハードルは高くなっていると思われます。政府による定額減税も予定されており、これが所得を下支えすることになりますが、所得が一時的に増加しても、節約志向が高まっているなか、個人消費の押し上げ効果は限定的になる可能性があります。
一方で、企業業績は好調であり、設備投資の増加が2024年の実質GDPの増加に寄与すると考えられます。法人企業統計によると、2023年7〜9月期の企業の経常利益は、前年同期比20.1%増加し、7〜9月期として過去最高を更新しました。海外景気の下振れや為替変動などのリスクもありますが、企業による設備投資は、今年も堅調に推移することが期待されます。
2024年の日本経済も回復傾向が続き、実質成長率はプラスを維持することが期待されるものの、その成長率は鈍化し、2023年の成長率を下回ることになると予想されます。また、企業の経営環境については、昨年と同様に、物価上昇と賃上げへの対応のほか、人手不足の解消が課題となるうえ、将来の金利上昇への備えも必要になりそうです。
本年も何とぞよろしく、ご愛顧のほどお願い申し上げます。
(小島淳次)