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未払給与請求と税金【330号】

政府の方針で世の中の経営者は、上昇する物価等の経費圧迫を受ける中、社員・従業員の賃金・給与を少しでも上げようと日々努力されている事と思います。また、働き方改革で人の仕事に対する働き方が多様性の時代になっているため、1つの会社に在籍する期間も短くなっていて、賃金・給与に対する争いも多くなっていると思われます。そんな中、労働基準法の一部を改正する法律および労働基準法施行規則等の一部を改正する省令が、令和2(2020)年3月31日に公布され、4月1日から、未払賃金の消滅時効期間が延長されることになりました。

今回の労働基準法の改正は、民法が改正されすべての債権の時効が5年となった事に合わせるためで、契約上の債権の消滅時効期間とのバランスをとって、賃金請求権の消滅時効期間を5年としています。(改正労基法115条)。ただし、当分の間は時効期間を3年としています。(同143条2項)。これは、急激に2年を5年に変更した場合は、労使関係に与える影響が大きい為、経過措置としての期間です。

参 考

民法 第166条(債権等の消滅時効

  1. 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
    ・債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
    ・権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
  2. 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。
  3. 前2項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

第115条

この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

第143条(新設)

  1. 第109条の規定の適用については、当分の間、同条中「5年間」とあるのは、「3年間」とする。
  2. 第114条の規定の適用については、当分の間、同条ただし書中「5年」とあるのは、「3年」とする。
  3. 第115条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から3年間」とする。

 未払給与の支払と注意事項

最近は勤務継続中の従業員・社員や退職予定の従業員・社員との間で賃金・給与等の労使問題が発生し両者の協議により会社側が従業員・社員に対して一定の金額を支払うことにより、解決する事案が増えていると思います。

この一定の金額を支払う際の名目が解決金等になっていても、その争いの内容が過去等の給与の未払が基準となっている場合は税金等が発生する事を念頭に入れて、解決金等の額を決めないと後から、税金等を会社が負担する事になる可能性もあるので注意が必要です。

また、和解や裁判で解決金等を決めても、税金等を考慮に入れていないので、解決金等から税金等を差引いて支払うと、場合によっては会社に対して強制執行手続きが行われ口座差押えの可能性もあるそうです。

解決金等の支払内容が重要

①賃金・給与、②退職金、③損害賠償金を区分しておかないと思わぬ税金等がかかってきます。

  1. 賃金・給与の場合は給与所得として税金が課税されます。
  2. 退職金の場合は退職所得として税金が課税されます。
  3. 損害賠償金の場合は非課税所得となりますので課税されません。

残業代等の一括支払いの考え方

過去の給与を修正して払われた場合(原則的な考え方)

未払い残業代等は過去の労働の対価であるので、本来の給与各支給日に支払われるはずであった残業代等が一括で支払われた事になります。よって本来の給与各支給日の属する年の給与所得として扱われます。

そのため、会社側は、本来の給与各支給日の属する月で税金等を徴収して納めたり、過去の年末調整をやり直したりする作業が発生します。また、自分で確定申告をされている方々は修正申告書を出すことになります。

協議により支払の確定した一時金として支払われた場合

未払いの残業代等を賞与の様な一時金として支払われた場合には、賞与と同様に扱われ、当期に支払いが確定した給与に該当することになります。そのため、従業員・社員の方々は、当期の給与所得になりますので、過去の税金について修正する必要はありません。

まとめ

過去の未払給与等を労使協議等で支払う際には税金等が発生する事を考慮して話をしてください。また、従業員・社員に支払われる一時金は内容により、課税されないものもあるので注意して下さい。

(大橋)

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2024年09月24日 代表取締役等住所非表示措置とは【329号】

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