政府は、令和2年1月31日に令和2年度税制改正法案を国会に提出しました。持続的な経済成長の実現に向けて、令和2年度税制改正(案)の法人課税関係では、企業が保有する内部資金や技術を有効に活用し、事業革新につながるオープンイノベーションを促進するための措置、及び投資や賃上げを促すための措置が講じられたほか、連結納税制度の抜本的な見直しが盛り込まれました。政府は、3月31日までの法案成立・公布を目指しており、施行日は原則として令和2年4月1日を予定しています。
(1)オープンイノベーション促進税制の創設
① ベンチャー企業への出資に対する所得控除
新しい技術・ノウハウ等を持つイノベーションの担い手となるスタートアップへの新たな資金の供給を促進し、企業の事業革新につながるオープンイノベーションの取組みを進めていくため、事業会社が、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に、設立10年未満・未上場等の要件を満たす一定のベンチャー企業の株式を出資の払込みにより取得した場合には、その株式の取得価額の25%相当額の所得控除ができる措置が創設されます。(特別勘定として経理した金額を限度)
この一定のベンチャー企業への払込みは、その金額が1件当たり1億円以上(中小企業からの出資は1,000万円以上、海外ベンチャー企業への出資は5億円以上)であるなどの要件を満たすものが適用対象となります。
② 株式を譲渡した場合の益金算入
上記①の適用を受けた事業会社が、その株式を譲渡した場合や配当の支払いを受けた場合等には、対応する部分の金額が益金に算入されます。ただし、取得から5年間保有した株式については、この限りではありません。
(2)5G導入促進税制の創設
5G情報通信インフラを早期に普及させるため、全国基地局の前倒し整備を支援するとともに、地域の企業等様々な主体が、自ら5Gシステムを構築可能とするローカル5Gの整備を支援するための措置が講じられます。
新たに制定される特定高度情報通信等システム普及促進法(仮称)に基づく認定導入計画(仮称)に従って導入される一定の5G設備に係る投資について、その取得価額につき、30%の特別償却と15%の税額控除(法人税額の20%を上限)との選択適用をできる措置が創設されます。
※ 適用時期:同法施行の日から令和4年3月31日までに取得して事業の用に供した場合
(3)投資や賃上げを促す措置
① 租税特別措置(特定の税額控除)の適用要件の見直し
収益が拡大しているにも関わらず、賃上げや設備投資に消極的な大企業に対し、キャッシュアウトを促すため、研究開発税制等の生産性向上に資する租税特別措置の適用が停止される設備投資要件について、「その大企業の国内設備投資額が当期の減価償却費総額の30%(現行:10%)を超えること」に、要件が強化されます。
② 賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し
設備投資の堅調な増加等を踏まえ、国内設備投資に対して一層のインセンティブを付与するため、大企業に対する賃上げ及び投資の促進に係る税制の設備投資要件について、「国内設備投資額が当期の減価償却費総額の95%以上(現行:90%以上)であること」に、要件が厳格化されます。
(4)地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の見直し
地方創生の更なる充実・強化に向け、志のある企業の地方への寄附を促すことにより、地方への資金の流れを飛躍的に高める観点から、企業版ふるさと納税について、手続の抜本的な簡素化・迅速化が図られるほか、税額控除割合が6割(現行:3割)に引き上げられます。
この税額控除割合の引き上げにより、寄附による法人関係税(法人住民税、法人事業税、法人税)の軽減効果は、損金算入による軽減効果(約3割)と税額控除割合(約6割)を合わせて、寄附額の最大約9割(現行約6割)になります。
適用時期:令和2年4月1日から令和7年3月31日までに支出される寄附金
(5)連結納税制度の見直し
① グループ通算制度への移行
連結納税制度は、企業グループを一体とみて親会社と100%子会社の損益の通算等を行う制度ですが、現行制度の下での税額計算は煩雑で、税務調査後の修正・更正等に時間がかかり過ぎるといった指摘がありました。
このため、制度の適用実態やグループ経営の実態を踏まえ、企業の事務負担の軽減等の観点から簡素化等の見直しが行われます。具体的には、企業グループ内において損益通算を可能にする基本的な枠組みを維持しつつ、親会社・100%子会社のそれぞれが個別に法人税額等の計算・申告を行う「グループ通算制度」に移行します。
② 時価評価課税等の対象縮小
現行制度では、適格株式交換等の場合を除き、完全子会社化してグループに加入する場合には、原則、加入会社の土地等の時価評価課税が行われるとともに、繰越欠損金が切捨てられていました。
この加入時の時価評価課税や繰越欠損金の切捨てについて、機動的な事業再編を円滑化する観点から、組織再編税制と整合性が取れた制度とされ、適格組織再編と同様の要件を満たして加入する法人は、時価評価課税等の対象外とされる見直しが行われます。
※ 適用時期:令和4年4月1日以後開始事業年度
(6)その他の見直し
① 交際費等の損金不算入制度の対象法人
法人が支出した交際費等のうち飲食のための支出(1人当たり5,000円超分)の50%を損金算入可能とする特例(接待飲食費に係る損金算入の特例)について、その対象法人からその資本金の額等が100億円を超える法人が除外されます。
※ 適用時期:令和2年4月1日以後開始事業年度
② 少額減価償却資産の損金算入特例の対象法人
中小企業者等が30万円未満の減価償却資産を取得した場合、合計300万円までを限度に、即時償却(全額損金算入)することが可能となる措置について、対象法人から連結法人及び従業員数500人超(現行1,000人超)の法人が除外されます。
※ 適用時期:令和2年4月1日から令和4年3月31日までに取得し事業の用に供した場合
(小島淳次)