今回の改正点は、①遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直しと ②遺留分の算定方法の見直しの2点です。
遺留分とは、被相続人が行った財産の無償処分(遺贈等)に対して、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人(遺留分権利者)に限り、最低限の財産の取り分(遺留分)の取り戻し(減殺請求)を認める制度です。
上記①について改正前は、遺留分の減殺請求によって、遺贈等は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者等が取得した目的財産は、受遺者と遺留分権利者の共有となるとされていました。せっかく後継者に自社株を集めようと希望しても、結局後継者以外の相続人との共有財産となってしまう例も見かけられました。
今回の改正では、遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、直接、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をできることになりました。
改正により、遺留分減殺請求権の行使により発生する目的財産の共有関係は回避され、目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者等の意思は尊重されます。その反面、金銭の準備が出来ない場合には固有財産を差し押さえられることも考えられます。尚、直ぐに資金が準備出来ない場合には、裁判所に対して支払い期限の猶予を求めることも可能になっていて受遺者等の保護も図られています。
上記②について改正前は、遺留分の計算上算入される生前贈与の範囲について、法定相続人に対するものか否かで取り扱いが異なっており、法定相続人以外の者に対する贈与は原則として相続開始前1年間にされた贈与に限られ、法定相続人に対する贈与のうち特別受益にあたるものは、特段の事情が無い限り、全ての期間の贈与が算入されました。そのため、被相続人が相続開始の何十年も前に行った相続人に対する贈与の存在により、当該受遺者やその他の受遺者・受贈者が受ける減殺の範囲が大きく変動し、法的安定性を害することも指摘されていました。
今回の改正では、法定相続人に対する特別受益にあたる贈与について、相続開始前10年間にされたものに限って遺留分の対象財産されることになりました。
改正により、贈与から10年が経過してから贈与者に相続があっても遺留分の侵害が生じることは無くなりますから、自社株や工場などの早期贈与で事業承継を円滑にすることが可能になります。
これらの改正は、2019年の7月1日から施行されていますので、2019年6月に相続があれば遺産は共有状態になり、相続人への生前贈与は無制限に遡りますが、7月以降の相続だと金銭債権が生じ、遡りも10年までと言うことになります。また資金繰りの関係からこれまでと同様に侵害額を不動産等の分与での代物弁済を行った場合には次のとおり課税関係が変わってきます。